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負けて悔しい花一匁
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週2回やって来る軽トラックスーパーで、3階の奥さんが筍を一本買った。
「さ、これから友人宅に糠をもらいに行かなくては」
「あら、糠ならウチにたくさんあるから」と階下の私。
翌日、茹で上がった筍が半分も届いた。
あらぁ、どうしましょう、一粒万倍、海老で鯛。
とにかく頂き物をしたら直ぐにお返しが飛び交う地である。
過分のお礼に自家製キュウリの糠漬けを差し上げた。
「糠ガール」という言葉が流行る数年前から糠漬けをやっていた。
田舎で米を作り、精米をしているので、糠は大量にある。
友人の姑さんにコツを教えてもらったのを機に、
料理本を片手にイロハのイから。
しばらく捨て漬けをすると、いい具合に発酵。
昆布、生姜、鷹の爪、ニンニクを月に2回入れ替えては、美味しくなあれの願いを込めて、
毎日セッセとかき混ぜ続けてきた。
数日後、老母と一緒の折、また件の奥さんと出会った。
「美味しい糠漬けをごちそうさま。あんなに美味しいのは久しぶり。
お母さんが漬けたの?」
「いえ、私が」
「お母さんに教えてもらって?」
糠漬けには指一本入れたことのない母なのに、ドヤ顔で笑っている。
え? 否定してくれないの?
世間体があるから私はこれ以上何も言えないのよ。
自分の物は自分の物、子供の手柄も自分の手柄だって。
そんな無茶な。
嫌な予感がした。うわぁ、やっぱり来た。
いつもの「母さん呪縛」が私を足元からジュワージュワーと覆い始めた。
お願い、もう止めて。
いくらもがいても、否応なしに呪縛は強く、大きくなり、せり上がって来る。
ついに首まできた。
ああ、だめ、一言だけ、言わ、せ、て・・・・ご。 |
エッセイとカット:まかせ手 |
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