老親たちが元気な頃、ダイニングのカーペットはサーモンピンクだった。
その効果でもないけれど、それぞれが明るく自由勝手に生きていた。
元来ものぐさな母は、髪染めの時、ヘアーカラーをあっちにボトッ、こっちにボトッ。
我が道を行くジイジは、カップすれすれにコーヒーを注いでは運んでくる。
手足に神経を集中させるも、揺れて溢れた雫がポタッ、ポタッ。
こんな生活が数年間、ふと床に目をやると茶色の水玉模様があちこちに。
黒髪もワサワサと絡み合っている。
随分汚れてきた。
替えたいがこのメンツではなあ。
やがて一人は鬼籍に入り、一人は施設へ。
よし、チャンス到来。
専門店に行き、迷わず汚れが目立たない焦げ茶色にした。
中身は空にしておくことを条件に家具移動も頼んだ。
当日やってきたのは作業着の男性一人っきり。
どうやって運ぶのだろう。
私、力仕事は無理です。
不安眼で見ていると、お兄さんは抱えている薄く短い板を床に置いた。
長さは50センチほど。先端はスキー板そのもの。
それを食器棚の底に差し込むと、一人で軽々と滑らせて行った。
「重くないですか?」
「全然。家具スベールと言って、ホームセンターにも売っていますよ」
あまりに分かりやすいネーミングに感心しているうちに作業は終了。
シックで綺麗になったダイニングで快適に過ごす・・・はずだったが、
歩く度に白い糸くずが増えている。
時折光って見えるのはどうやら白髪。
テーブルの下には、干乾びた米粒や煎餅の割れカスが散乱。
屈んで拾っているとなにやら固まりに触れる。
なんとレーズンだった。
あらぁ、今度は私か。
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