草木も眠る丑三つ時・・・・より3時間ほど前、
老夫婦はテレビを子守歌にしてすでに眠りについていた。
2時間サスペンスも終わったし、私もそろそろという時、隣の部屋からごそごそ。
襖を開けて見ると、ジイジが服に着替えている。
「どうしたの?」
「ああ、小さな子が映画に連れて行けとバス停で待っているから行ってやらなきゃ」
あまりに現実とかけ離れた言葉に心臓はバクバク。それでも確かめなければならない。
「小さな子って?」
「ウチの坊だよ」
ゲゲッ、もうじき五十路になるお兄ちゃんのことだ。急いでバアバを揺り起こした。
「お父さんがへんだってば、早く服を着てよ」
「は? 何?」
事情を説明すると、今までヨダレを垂らしていたような顔がシャキッとなり、慌て始めた。
ジイジは靴を履いて暗い町に颯爽と出て行った。追いかける母と私は見つめ合って無言の会話。
(ついにきたのかも)
(これからどうなるのかねえ、毎晩こんなことが起こるのかしら?)
バス停に着いても小さな子はいないし、店のシャッターも閉じている。もちろんバスも車も走っていない。
不思議そうな顔で辺りを見回すジイジ。頑固さは折り紙付きなので、こういう時は本人が自覚するまで待つしかない。
「いないなあ」
「ね、もう遅いから帰ろうね、ね」
促すとキツネにつままれたような顔をしながら戻り始めた。
翌朝、恐る恐る尋ねた。
「昨夜のこと覚えている?」
「・・・・・・・どうやら寝惚けたみたいだなあ」
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