悪路を走るバスに酔っては、下車と休憩を繰り返して一日がかりで着いた田舎。
私達の夏休みを迎えてくれたのは、ツクツクホウシや兜虫、縁側で種をブッ飛ばしながら食べる西瓜ばかりではなかった。
ただ一つ都会つ子を悩ませた昭和の田舎を象徴するシロモノが待ち受けていた。
「お母ちゃん、オシッコ」
「あそこの小屋にあるから」
行けば、白い便器ではなく板張り。
中央が四角く空いていて、斜めに板が立て掛けてある。下をのぞいた途端、
「ぎゃぁぁぁぁ、お母ちゃん」
「どうしたの?」
「何か動いているよ」
「下を見なけりゃいいのよ、さっさとしなさい」
下には土に埋まった瓶。そこで動き回る虫達。いわゆるボットン便所。
「だってぇ・・している時に、あの虫達が食い付きに上がって来そうだもん」
「そんなことないから」
現実と妄想に怯えながらも終わって隅を見ると、籠にB5くらいに切った新聞紙が。
「お母ちゃん、あれで拭くの? ゴワゴワだよ」
「こうやってモミモミすれば柔らかくなるでしょ」
「ここにいる間にお尻が真っ黒になってしまいそう」
「ならないから安心しなさい」
田舎の毎日は畑仕事で忙しい。
どうやって瓶から汲んだのか分 からないが、祖母がたっぷり入った肥桶を担いでやってくる。
そして野菜の根元の土に杓でビシャッビシャッと撒く。
時折勢 いがついて野菜にかかる。
「お婆ちゃん、かかっているよ」
「あんじゃあない、一雨降れば洗ってくれるだよ。
栄養たっぶ りの新鮮な野菜をたんとお食べておいきよ」
「・・・・・」
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