37年ぶりに入院した。師走も半ばを過ぎた頃から尿の出が悪く、体重が
イッキに1キロも増加、歩くと息切れ。心不全の三大症状が揃ったので、
これはヤバイと病院へ。
レントゲン、心電図、採血の結果が出ると、主治医が、「入院しますか?」
ナースが、「とりあえず熱も計ってみましょ」
37.8度もある。鼻から棒を突っ込んだあの検査。しばらくして「陽性です」
「ええっ、耳鼻科しか行っていませんけど」
「今はどこで感染するかわかりませんから」と、否応なしの入院。
心不全は肺に溜まった水分を早急に出さなくてはならない。最初は
個室で、あれよあれよと言う間に両手に点滴の針。鼻からは酸素。尿には
導管。
効果は早く、3日目に尿管だけが外れると、トイレに近い4人部屋の入り口
側に。
ここでは24時間マスク着用と仕切りのカーテン。
「よろしくお願いします」と挨拶しても応答なし。声はすれども顔は分からない。
食事や薬の時に名前と生年月日を言うので、おおよその人物像だけ。
天井とカーテンを見つめるだけの日々が続いた。智恵子は病室にも空がない
といふ。ほんとの空が見たいといふ。
仕方ないからトイレの度に外が見える場所まで行く。もう両手の点滴も外れた
ので散歩も身軽だ。
病室の洗面所に行くと空は見えるがペーパータオルがない。ナースステー
ションに伝えに行く。数日するとまたカラ。
普通、補填は最後の人の仕事だよなと思いつつ、またまたお願いしに行く。
私の仕事になっちゃった。仕方ないか、ラクに動けるのは私だけだもの。
手を洗い過ぎたのか、このペーパータオルが粗いのか、ひび割れてきた。
血も滲む。何かないか、何か・・・・。
身の回りの物を注意深く見渡すと、ありました。唇がカサカサになり皮が
剝けるので、頼んで買ってきてもらったメンソレータムのリップクリームが。
唇に良いなら手にだって良いはず。洗う度に塗った。苦肉の策に効果あり。
10日の隔離を終えると一般病棟の個室に。トイレには流水音までついて
いる。点滴と利尿剤でオシッコを出した後は、なぜか勢いがついてきた。
懐かしい。聞きたかった威勢のいい音。それなのに流水音がジャー。
うるさいぞ、消音ボタンを押す。期待に反してチョロチョロでがっかり。
歩行リハビリをしながら年越しをして、めでたく退院。